藤倉麻子
現代都市の「楽園」は、
どこにひそんでいるのだろう
あの山の裏/Tire Tracker
作品紹介
いつも目にする景色の「裏側」を想像したことはありますか?
かつて共同体のなかでは、その地にそびえたつ「山の裏」に楽園や死後の世界があるとも考えられてきました。
それは物理的な場所と捉えられることもあれば、人々のイメージのなかにだけ存在する世界であったりもします。
都市郊外で生まれ育った藤倉麻子は、現代の都市がつくりだす風土のなかにも、無意識のうちに「山の裏」を想起してしまう、ささやかな信仰が生まれていると言います。
巨大なインフラ構造のすきまからのぞく遠浅のビーチの看板。
そんなかすかな景色の残像が、人々に現代の楽園を想起させるのだと。
さらに藤倉は日々移動を続ける車のタイヤに着目し、その存在を「ある目的の達成に向かう媒介とみなされたもの」であると同時に「それ自身も達成に向かうもの」と定義します。
しかしタイヤはときに、家や畑の片隅に放置されたりもします。
藤倉はそうした車体から外れたタイヤたちを「達成の途上」と表し、全国のタイヤ情報を集めています。
あなたの生活圏のなかにも、「山の裏」や「途上のタイヤ」がどこかに潜んでいるかもしれません。